香典と数珠

今回は一歩会社を飛び出して、ご近所付き合い編。北海道の葬儀事情についてです。

北海道の通夜・告別式にまつわる風習って、少し独特なんですよ。全国的には“常識ではない”やりとりが、日常的に行われています。

その独特の風習のために、北海道の葬儀の現場においては、私のような事務員が活躍することがままあるんです。かつて事務リーダーが実際に葬儀の運営にかかわった経験を元に、今回は北海道ならではの一風変わった葬儀事情についてご紹介します。

なお、念のためにお断りしておきますが…

北海道はでっかいどう。はてしなく広い“試される大地”北海道のことですから、その中でも地域によって様々な違いがあります。これは北海道に限ったことではありませんけどね。

あくまでも事務リーダーの経験した一例として「北海道の一部じゃそんなことやってんのか」と面白がっていただければ幸いです。ちなみに北海道の中でも、主に道央・道南で見聞きした経験をもとにお話しします。

北海道の葬儀の常識は日本の非常識?

羊が丘展望台

代表的な話をひとつ。われわれ道産子は皆、香典を持参したら領収書を受け取るのが当たり前だと思ってます。

「えっ!香典に領収書?!」

そんな“内地の”事務員さん方の声が聞こえてきそうです。その一方で、

「香典に領収書…普通でしょ?」

という声がそこかしこから聞こえてくるようです。そう、こっちではそれが平常運転なんです。

香典領収書について

北海道を除いては千葉県の一部で香典に領収書を発行する文化があるそうですが、全国的には稀な「香典領収書」。香典専用の領収書の様式が存在し、広く使われています。

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こんな感じです。宛名や香典の金額の他、供物料・供花料の記載欄が設けてあるものが多いです。

葬儀における必須アイテムとはいえ、一般家庭が自前で用意していることは多くありません。いざという時には葬儀屋さんが用具一式を貸出・販売しているので、それを利用します。

事務員から見た香典領収書

会社の経理的に言えば、香典は経費(不課税取引)になります。取引先相手なら接待交際費、従業員関係なら福利厚生費として計上しますね。

なので、事務員にとっては領収書が発行される北海道式の葬式は、手間がはぶけていいんです。領収書があるため、別途に支払証明書などを作成する必要がありません。

という訳で、ある意味では合理的で重宝しているんですが、珍しい慣習ということに変わりはありませんね。

ちなみにいうと、香典に対して領収書を受け取るのは法人などの事業者に限りませんよ。基本的には全員に対して領収書が発行されます。ただ、個人では領収書を必要としない方が多いので、断ることも多いです。

個人が領収書を受け取るのは「知人から香典を預かってきた時」ですね。きちんと香典を受け取ってもらった証として、領収書を書いてもらいます。会葬御礼のカードには宛名がありませんから、このあたりは合理的だと思います。

記帳台はありません。というか、記帳しません。

供花

これも大きな特徴かもしれません。北海道の通夜・告別式の受付では、弔問客の記帳はありません。

全国的には、弔問客は会場受付にて名前・住所の記帳をすることと思います。もしくは芳名カードなどへの記帳ですね。それを元に、遺族は式の参列者について把握します。

「記帳がなければ誰が参列していたのか確認できないし、香典返しもできないのでは?」

これに対しては二つの答えがあります。まずは香典返しについて。

香典返しは即返し。後日のお返しはありません。

“香典返し”とは本来、四十九日の法要が済んでから、その報告とともに香典(お供え)に対するお返しをするものだそうです。

ところが北海道では、受付で渡される会葬御礼の粗品それ自体が「香典返し」として扱われます。いわゆる“即日返し(即返し)”というやつです。道外でいうところの香典返しのように、後日あらためてお返しを送るという事は、基本的にありません。

喪主や施主が立場のある人であったり、律儀な人だったり、特別な配慮に対してなど、別途お返しをする方が全くないわけではありませんが、後日の香典返しを期待している人は、まずいないと思います。そもそも、そんな習慣がないんです。

ですから、住所の記帳がなくても別段困らないということですね。お返しを発送するということがないので。

というわけで、本記事のタイトルにある「香典返しはナシ」というのは正確ではないのですが、本来の意味での“香典返し”がないというのはその通りです。

ちなみに事務リーダーの経験上、その香典返しで最も多いのは「海苔(焼き海苔)」です。

9割方と言っていいくらい、定番中の定番です。だいたい500~1,000円程度のものだと思うのですが、普段食べる海苔としては安物感があまりなく、結構おいしいなと思う程度の海苔をいただけます(事務リーダー調べ)。

子供のころは「海苔よりクッキーとかの方がいいのに…」と思っていましたが、大人になってみると結構嬉しいものだったり。うちの子らが海苔巻好きなせいか?

道民が手巻き寿司大好きなのも、家に貯まった香典返しの海苔を景気よく放出するチャンスだからかもしれない。異論は大いにありそうだけど。

香典返しの主流は“カタログギフト”

北海道ではなじみの薄い香典返し。では、四十九日法要など、法事の時の“引き出物”についてはどうか?というと、そちらは用意されていることが一般的かと思います。招待のため、準備の計算が立ちますしね。

昨今、香典返しや引き出物としては、カタログギフトを選ぶ方が増えていますね。

↑このくらいのラインナップになると、受け取った方の満足度も高いですね。値段も高いけど…

受け取る側にとっては選ぶ楽しみがありますし、なにより送る側にとっては品物選びに悩まされる心配がありません。相手との関係や香典の金額によってお返しの内容を変える場合にも、カタログギフトならそのグレードを選ぶだけでOK。人気の理由もうかがえます。

葬儀の話とは逸れますが…

事務リーダー自身も、結婚や出産などの内祝いとして、個別に品物を選んだ経験、カタログギフトを利用した経験ともにありますが、圧倒的に後者のカタログギフトの方が気楽でしたね。

確かに、親しい間柄の相手に対してなら、その人の顔を想像しながら品物を選ぶのも楽しいけれど…仕事の付き合いや家同士の付き合いなど、当人とはそれほど面識がない方に対してする場合は、品物選びも悩ましいものになりますよね。

相手の好みもあるでしょうし、お酒やコーヒー、お茶といった嗜好品も選びづらい。カタログギフトならばその心配はありません。一旦家に置いておくにしても、それほど場所をとらないのも利点です。

また、金額によってお返しの内容に差をつける場合でも、届くのはみんな同じカタログ(選べる品物のランク・外装の色などは違いますが)なので、受け取った人同士の会話の中で、相手にそれとわかる違いがないのもいいですね。

「あの人の方が、うちよりいいものを貰ったようだ!ずるい!」なんて言われた日にはね…そんなこと考えるくらいなら、わざわざお祝いなんてくれるなよって感じですが。

以上、カタログギフトについての余談でした。

記帳をするのは参列者ではなく受付の事務方

葬儀

葬儀において記帳がないことで困ることはないのか?という疑問についての2つ目の答えです。弔問客が記帳しない代わりに、受付側で帳簿を作成します。そのための記帳部隊が控えています。

ここからは、事務リーダーが受付の手伝いをしているという体で、通夜の流れを追っていきたいと思います。仕事の内容はまさに事務員のそれなので、人手がなければ頼まれることも多いです。

通夜の受付の中は、おおまかにいって二手に分かれています。弔問客の窓口となるフロント陣と、受け取った香典などの処理をするバック陣です。

その他に、“特に仕事はしないけど、面白い話や近所の噂話を提供する”サイド陣が陣取っていることもあります。

受付の仕事 フロント編

フロントは、弔問客から受け取った香典袋をすぐにオープナーで開封し、金額に間違いがないかを確認してもらいます。

“切れ端”の出ないレターオープナー。ワンコイン(500円以内)でこの便利さ、コスパ最高

「この度はご愁傷様で…」というような、神妙なやり取りはそこそこに、まずは金額の確認をします。というか、そういういかにもなやりとりは、受付ではあまり見ない気がします。

こういうところは、北海道流はわりとドライというか、ざっくばらんというか。

冠婚葬祭でいうと、結婚式にしてもそうですね。北海道は祝儀ではなく会費制というのはよく知られていますが、 袱紗とか用意してる人は(特に男性では)珍しくて、受付では現金を財布から取り出して支払います。ピン札だとか折り目がどうだとかも気にしません。

北海道民は往々にして、形式ばった堅苦しいやり取りというものに、あまり馴染んでいませんね。これは田舎に行くほどその傾向が強いです。

通夜での受付の話に戻ります。

香典の金額とともに、参列者の方に領収書が必要かどうかを確認します。要らない人は、たいてい自分から申し出てくれますけどね。何件かまとめて受け取った場合は、どの香典に領収書が必要なのかも聞きます。

この時のポイントは、封筒の隅あたりに、 入っていた金額をわかるようにメモ書きしておくことです。香典の額はほぼ1,000円単位なので、5,000円ならば「5-」、10,000円ならば「10-」といったように書いておきます。

また、香典の他に供物料・供花料をいただくことがあります。その場合は、香典との区別がわかるよう、付箋などをつけてバックの人に渡します。

供物料・供花料とは…

供物料・供花料とは、それぞれ、お供え物やお花の代わりとして現金で渡されるものです。

香典の他にも故人への気持ちを表したいのだけれど、皆が皆現物を贈ったのでは、式場がお供え物でいっぱいになってしまいます。そのための配慮として、親族など特別親しい人以外の個人は、供物料・供花料という形で香典とは別に渡すんですね。法人の場合は、花輪などを贈ることが多いですね。

式場内に飾られる供物・供花には贈った方の名札がついていますが、供物料・供花料は当然場内に飾られるものではないため、贈ったことが他の参列者に一見してわかりません。それでは、贈った方に失礼になってしまします。

供物料・供花料は現物のお供え物やお花と等しく扱わなければいけません。そのため、供物料・供花料については、紙製の札等に贈り主の名前を書いたものを、場内の壁や鴨居などに掲示します。

領収書は香典袋の表書きを見て作成し、受け取った件数分の会葬御礼(お礼状・香典返し)、それを入れておく袋と合わせて、参列者に渡します。

金額をメモした香典袋は、中のお札が見える形にしてバック陣に手渡します。供物料などの目印の付箋は、宛名書きの担当者に渡るようにします。

ここまでがフロント陣の仕事です。

受付の仕事 バック編

電卓

まずは、フロントから受け取った香典袋にメモしてある金額と実際の金額とに間違いがないかを確認します。

それから、参列者の名前、香典等の金額、(書いてあれば)住所などを、参列者の記帳に代わる会計帳簿に記入していきます。封筒と帳簿には通し番号を振り、あとから照合できるようにしておきます。

住所は書かれていない事も多いです。香典返しの項でお話しした通りの理由です。住所を書いている人は、遺族にとって分かりやすいように付け足している、程度の理由です。

帳簿はページごとに小計を出し、現金と照合してまとめておきます。現金の管理担当者を決めておきましょう。札勘定の仕事は、金融機関系の人の頼もしさを思い知る瞬間です。

供物料等の札書きは、仕上がり次第会場に貼り付けに行きます。筆(ペン)書きなので、きちんと乾くのを待ってから持っていきます。

足りなくなった会葬御礼などを段ボールから補充するのも大切な仕事ですね。

バック陣の仕事はこんなところです。

受付の仕事 サイド特別編

受付の人たちが退屈しないように、ひたすら面白い話をします。来場した参列者と個人との関係や、あとで振舞われるお弁当についてなど、有益な情報を常に提供しましょう。皆のお茶やコーヒーが切れていないか、目を光らせておくのも忘れずに。

受付の仕事 総仕上げ

通夜がはじまり、来場者の波が途切れたら一段落です。締めの作業に入ります。

香典等の現金と帳簿の照合の他、寄せられた供物・供花・電報などの詳細を控えておきましょう。供物料など現金で頂いたものと違い、現物はその時点では帳簿に載っていませんので。

落ち着いて作業するには何かと忙しいので、通夜終了後にデジカメなどで動画撮影しておくのがオススメです。

葬儀終了後、取りまとめた帳簿類についてはエクセルなどでデータ化しておくとよいですね。後々、こちらが香典を出す立場になった時に役に立ちます。

「あの人から香典貰ってたっけ?いくら包めばいい?」なんて時に、帳簿をひっくり返して探さずに済みます。

葬儀の受付・香典等の会計についての事務作業は以上です。まんま事務員の普段の仕事と一緒ですね。

実際の葬儀では、この他にお寺や葬儀屋、各種仕入先への支払関係のとりまとめ、手伝いの方々へのお礼の用意なども行うことになります。

北海道の葬儀 受付の中の人編 終わりに

コーヒーブレイク

北海道ならではの葬儀のしきたりについて、事務員に関わり合いがありそうな部分をご紹介しました。

実はこれも独特のものなのか…?という風習は他にもあって、はたしてそれが北海道民だけの常識なのかどうか、みなさんに判断してもらいたかったんですが、どうにも本文が長くなってしまい…

例えば、

  • 会場設営から撤去まで、近所の男衆がこぞって手伝いに駆けつける
  • お寺の台所のお手伝いさん達(近所のおば様方)は決まってソーメンをゆでる
  • 給食で出るようなカレーも炊き出す
  • おめでたい時の「赤飯」とは逆で「黒飯(こくはん)」をいただく
  • 最後の挨拶は喪主ではなく“葬儀委員長”がする。町内会長や縁のある地元有力者など
  • 下足スペース(下駄箱)が不足しないように、靴入れ用のビニール袋を配る
  • 通夜の終わりに、玄関先でもれなく袋詰めのスナック菓子や缶のお茶などが渡される

などなど。どれもこれも、宗派の違いとかそういう問題じゃない慣習だという気がします。こういうのってどこでもやってるんでしょうかね?情報、お待ちしてます。

北海道の葬儀に初めて出席される方へ

道内への転勤によって、または遠戚とのお付き合いなどで、これから初めて北海道式の葬儀に出席するという、そこのあなた。

もしかしたら「違う振る舞いを求められているようで面倒くさいなぁ…」と、そんな印象を与えてしまったかもしれませんね。

しかし、安心してください。北海道流のしきたりを知らずに参列したからといって、特に無礼にあたるということはありません。むしろ、そういった形式上の気遣いについて、北海道民はあんまり気に留めてないように感じます。

どうぞいつも通りに参列して、その違いを楽しむくらいの気持ちで臨んでください。葬儀を楽しむとは不謹慎だと怒られそうだけど。

独特の風習 根底にあるのは“助け合い精神”

最後に、香典の金額の多寡にかかわらず返しが一律(しかも1000円程度)という点について。

いわゆる香典返しはなく、かといって香典の額が全国的な平均より安い訳でもありません。つまり、参列者の負担という意味では、道外のそれと比べても大きいことは確かです。

それでもこういった形式が今でも続いている。その根底にあるのは、開拓民の末裔ならではの互助精神、助け合いの心なのかもしれません。

大切な人を亡くし、それでも悲しみに暮れる暇もなく、葬儀もろもろの忙しさに追われる遺族。そんな時には、自分の仕事もそこそこに手伝いに駆けつける。そしてせめて、金銭的な負担は少なく済ませてやりたい。

弔事というのは誰にも訪れるもので、お互い様のこと。ゆくゆくは自分に返ってくるものと思って、香典なり人手なりを出すんです。

ラベンダー畑

北海道を舞台としたドラマとして、代表的な作品の一つ「北の国から」。その最後の作品となった「北の国から 2002遺言」の中で、田中邦衛さんが演じる黒板五郎が、こんな印象的な言葉を残しています。

(拾ってきた廃材で家を建てている五郎を、ひょんなことから手伝うことになった、唐十郎演じる『トド』こと高島吾平。多くの近所の人たちが一日中手伝っているのを見たトドと、五郎とのやりとりより)

五郎「ここいらでは『手間返し』といって、お互い人手を貸し合うんです」

トド「…日当は?」

五郎「そういったことは、しちゃいかんのです。働いてもらった分は、働いて返す。金やモノで返すのはナシ、と」

事務リーダーのとても好きな場面です。

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